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ベトナム事業で起業時に意識したい6つのこと:後編(最初だけローカル名義での設立/M&Aと新規設立/合弁と独資)

さて、前編に続いて、ベトナム事業での起業時に意識したいことの後編です。

4. ローカル出資者名義での設立のほうがライセンスを取りやすいのか?

外資で出資するつもりでも、「最初はローカルで設立し、その後外資化します」という話をよく耳にします。これは3で記載した途中で外資というのではなく、ローカルで設立した後すぐに外資化するという話です。

この理由として挙げられることが多いのが
①そのほうが設立が早く設立できる
②手続が簡単
②ライセンスの取得がしやすい
という理由です。
これは一部あたっており、一部間違っていますので注意が必要です。
たしかに設立だけなら早くできます。しかし、その後外資化する場合、持分(株式)譲渡の手続が必要となりM&Aで必要になる手続(後述5参照)を行うことになります。これは外資で設立するのと同じくらいの期間と手間がかかります。
また、ライセンスの取得についても、外資化をする際に外資設立時と同様の審査が入るため、最初ローカルでその後買収すれば外資規制がかからないというものではありません。

そのため、多くの場合は新規設立のほうが手続も1ステップで良いということになります。直近で新法人で受けなければならない仕事があり、「ハコだけでも早く作りたい!」というケースでは最初ローカルですぐ作る、という意味はあるでしょう。

5. M&A vs.新規設立
・外資での新規設立の場合

新規設立の場合の手続概略は以下のとおりです。

①IRC(投資登録証明書)取得:提出から15日以内(外資のみ)
②ERC(企業登録証明書)取得:提出から3営業日(内外共通)
・会社の「設立」は②時点
・日本で登記簿謄本や代表者のパスポート等の公証・認証書類が必要
・提出書類の不備で「提出」と認められるのに時間かかることも多い
・提出してからも上記日数より実務上時間がかかること多数
上記に加え、各省が管轄する業種については以下も必要となります。
③各省からのサブライセンス(例:小売、教育、防犯etc)
・サブライセンスに係る業種はこの取得をしてから当該事業開始可能
・多くのサブライセンスは取得に時間がかかるものが多いので注意
実態として、①②で書類準備を入れると3ヶ月くらいかかっているケースが多いです。また、合弁事業等で複数の出資者がおり、書類準備に時間がかかるケースもあります。③については、業種によるが1ヶ月程度のものから半年以上かかるものまで様々。提出する地域によって対応が異なることもあることもあるので注意が必要です。

・M&Aの場合

M&A(持分・株式譲渡)の場合、新規設立と異なるプロセスとなります。

①株式譲渡契約の作成・締結
②M&A承認(Transfer Approval)の取得
※制限のない業種かつ51%未満の出資であれば不要
③出資者変更手続(ERCの出資者名変更)
(④IRCの変更手続:必須ではない)

M&Aの場合、②③が、新規設立のIRC取得・ERC取得と同じくらいの時間がかかります。

・新規設立とM&Aどちらがいいのか。

ベトナムでの事業開始の方法として、既存のベトナム企業を買収するというのは一つの選択肢であり、最近非常に増えています。

M&Aの場合手続が早く済むという話を聞くこともありますが、実際は同じくらいの期間がかかります。そのため、本当にM&Aでの取得が必要なのかは慎重に検討が必要です。また、ライセンスの取得についてもM&Aであっても外資の制約はかかります。

もちろんM&Aにより既存の設備や土地使用権を取得できるため、それが必須であればこの方法によらざるを得ないケースはあります。
しかし、工業団地以外の土地使用権の取得以外であれば、資産だけの売買は可能ですので新規設立したうえで資産のみ購入ということも可能です。

ベトナムローカル企業は、運営面について厳しい管理がされておらず法務・税務リスクの塊であるケースはよくみますので、もしM&Aを取る場合でもデューデリジェンスなどでしっかり調査することが必要となります。その調査期間や費用、また譲渡条件の交渉の期間を考えると、新規設立したほうがよいという結論になるケースも多くあります。

6. 合弁 vs. 単独資本

今回は起業したいという方対象なので、日本とベトナムのジョイントベンチャーとなるケースは少ないと想定しています。そのため、合弁か単独資本かについては簡単に触れるのみにします。

合弁企業は、50:50の公平な割合で設立される場合もあり、ずっと仲が良い関係であればそれで問題ないかもしれません。しかし、経営がうまくいかない、両者の役割に差が出てくる、等により意思決定が統一できないケースも出てきます。その際、50:50ですと普通決議すらできないということになりかねません。また、その他の比率でも特別決議(有限責任会社の場合原則75%、株式会社の場合原則65%)が単独でできないという場合も多く出ます。

そのため、ほとんどの事業を自らやる場合は単独または圧倒的多数を取るべきですし、合弁にするのであれば双方の役割を明確化したうえで、上述したケースを想定し、きっちり合弁契約や定款を作り込むことが必要です。

終わりに

上記のとおり、単純にベトナムで事業の運営を開始するとしても、考えなければならないことは多数あります。設立してから困らないよう、予めこの記事に書いたことを頭に入れてもらえれば嬉しいです。

さらに、実際に運営するときの法律上、税務上の注意点についても知識としてもったうえで起業するのが望ましいのですが、この記事では長くなったので労務や税務等の最低限の知識は別記事にしたいと思います。

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