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【Chidori齋藤さんインタビュー】テクノロジーと日本のホスピタリティでベトナムの若者の生活体験を向上させる

今ホーチミンの若者に大人気の「Chidori coffee in bed」(以下Chidori)。今までのカフェとは一線を画したコンセプトで支持を得ています。Chidoriが着目したのはベトナムの若者が抱える「住環境の課題」でした。この課題を解決し、若者の生活体験を向上すべく作られたChidoriでは、ベッドの置かれた半個室のプライベートな空間で、ドリンクやスイーツを楽しみながら、都会の喧騒を離れて親しい友人と、または自分だけのゆったりした時間を過ごすことができます。

本記事では、創業者である斎藤さんに、事業のミッションやベトナムでのビジネスの実情、今後の展望などについて伺いました。

半個室のプライベート空間が特徴

〈プロフィール〉
齋藤 壮さん
Chidori Hospitality, CEO
上智大学卒業後、Goldman Sachsシンガポール支社で勤務した後、日本株とベトナム株を中心に投資するヘッジファンドへ転職し上場企業のリサーチ業務に従事。2018年12月末にChidori Hospitality Co., Ltd.を起業。現在に至る。

〈Chidori について〉
社会課題解決型のカフェブランド「Chidori」。成長意欲の旺盛な若者が、生活体験を向上させられるようなパーソナル空間の提供をテクノロジーを使って実現している。2018年12月にゼロから2022年には会員顧客数約5万人・年間40万人が利用するサービスへと成長させ、新たな市場構築にマーケットリーダーとして挑んでいる。
Website: Chidori.vn

 

・なぜベトナムを起業する市場として選ばれたのでしょうか

端的に言えば、自分にとって一番エキサイティングな場所だったからです。起業は生き方の選択ですから、単純に「この人たちと一緒に働きたいか」「生活を楽しめるか」という観点でベトナムを選びました。

彼らのエネルギー値の高さ、生活水準を日々上げていく危機感とスピード感に惹かれました。周りもみんなそうで、それが当たり前になっている状況がありました。ここで何かしなければという思いが抑えられなくなり、このまま中途半端な気持ちでサラリーマンを続けるのは良くないと思って辞職させていただきました。

前職で投資した際のテーマが「コンシューマー市場の拡大」であり、現地の経営者に会って、強気気味の計画を上回る成長を何度も目の当たりにしたり、最も人口の多い年齢30歳あたりの人口が人生でもっともお金を使う向こう20年にかけて間違いなくコンシューマー市場は伸び続けると判断し、独立したらコンシューマー向けのサービスをやろうと心に決めていました。しかし、実際のビジネスがどうなるかは、何も決まっていませんでした。

_カフェという事業内容に至ったのはどういった経緯だったのですか

投資家側で仕事をしていたときは、飲食領域には絶対に投資しないというポリシーがありました。ですからまさか自分がカフェをやるとは想像もしてませんでした。
しかし、現地の人とリアルな生活をしていく中で一番驚いたのが彼らの住環境の不快適さでした。よくよく話を聞いていると、その原因が経済の急成長から生じている歪みであり、構造的な問題であることがわかりました。どういう状況かといいますと、ベトナム人の20代前半の平均収入は日本円で2~3万円程度しかありません。一方で、ホーチミン市内の不動産価格は所得を大きく上回るペースで上昇しており、結果的に家賃に費やせる金額が日本円で1万円程度となっていました。1万円ですとどうしても共同生活や下宿を強いられます。

つまり、彼らは基本的なパーソナルスペースを確保できない状態にあったのです。ベトナムの若者はカフェに長時間滞在したり、夜オフィスが閉まるまで居残りする人が多いです。またベトナムは外食産業のGDPが他の国と比べてかなり高かったりします。彼らは家に帰りたくないからその場所にずっといるのかもしれないという強い仮説がうまれ、この部分に住環境の課題が現れていることに気づきました。

Chidori Cafeの内部

 

・事業のミッションを教えてください

「生活体験の向上」

前職で飲食領域に投資しなかった理由は、リスクが多く特に参入障壁が低いことで競争に飲み込まれやすいからでした。
しかし、消費者の生活水準向上に本気で寄与し、彼らとの信頼を築けることができれば「ブランド」の要素がうまれ、プロダクトがコモディティー化したとしても競争優位性を保てると考えました。だから我々はミッションを「生活体験の向上」、ビジョンには「最も信頼されるホスピタリティー企業になること」といれています。本気でそこを目指そうとして、例えば、日本で当たり前のことを当たり前に改善していけば、自然と競争から頭一つ抜け出せる存在に、そしてそうした努力を体感してくれた消費者からの信頼の積み重ねが大きな競争優位性になると思います。特に、事業を行っていく中で、長期的な企業構築をあまり意識していない競合が多いので、余計それが価値になりやすいと感じています。

_私たちの経験がそのまま価値になるんですね

「日本のプレゼンスを本気で上げる」

「日本のプレセンスをあげたい」この言葉は薄っぺらくて嫌いなんですけど、何が薄っぺらさと本気を分けるかというと、”skin in the game”しているかどうか、つまり身銭を切っているかどうか。何かを本気で変えたいときにはネガティブなリスクをとらないと本気になれないですよね。だから前職時代に自分のお金をかけてないのにも関わらず投資判断する側にいることが歯痒くなりましたし、自分自身でリスクを最大限に取った上でサービスを提供し、直接ローカルの人達の生活体験を向上させていくことで、日本のプレゼンスを本気で上げたい、と僕は思っています。明治から昭和初期の先輩方が築き上げた過去の日本にすがるのはやめ、コンテンポラリーな日本に対するイメージにポジティブな驚きを与えることが僕らの使命です。

 

・Chidori の強みは具体的にどのような面にあるのでしょうか。

端的に言えば、質の高いサービスを安価で提供する、不可能を可能にするテクノロジーがあることです。どういうことかといいますと、どうやってベトナムの若者をターゲットにして競争の激しいカフェ市場で儲けるのかということです。それに加えて我々のように限られた部屋数の店舗でクオリティーの高い原材料を使ったサービスやホスピタリティーに関する社員教育への投資があるとなおさらです。起業当初、投資銀行時代の友人や頭のいい先輩方に相談したところ、ほぼ全員に絶対失敗するからやめたほうがいいと言われました。
テクノロジーへの投資は現在、予約管理のAIシステムと、会員制度を利用した顧客情報の活性化の2つの領域に行っています。

店にお越しいただければおわかりいただけますが、Chidoriはカフェ業態でありながらお客様に部屋を提供しており、オペレーション形態としては、客室数に限りがあるという点で、ホテルの稼働率管理と同様です。つまり、わざわざ来店いただくお客様にできるだけ体験いただけるように、満室でご案内できない状態をできるだけなくす努力が必要になります。ここに独自開発したテクノロジーを適用しています。このテクノロジーを入れたことで事前予約の割合が増え、せっかく来たのに使えなかったという状況をできるだけ減らすことができてきています。

また、Chidoriはリピート率70%のビジネスであり、顧客管理が重要になります。そこへも現在投資しており、どのスタッフであってもパーソナライズされたサービスができるよう工夫しています。具体的には、Chidoriのパトロンとなっていただいているお客様に対して自動的にパーソナライズされたサービスのご提案などこちらからアプローチできるようなものです。
このようにテクノロジーが活用できる部分はシステム化して、スタッフの負担を減らすことは、我々のミッションやビジョンを考えたときに不可欠でした。ですから、これからも必要不可欠と判断した領域にはどんどん投資していきます。

 

・今後の事業のビジョンは何ですか

まずは店舗数を増やしたいですね。現時点では7店舗しかなく、お客様にインパクトを残すためにはベースとして絶対量が必要なので、まずはホーチミンで25店舗くらいには広げ、そこで形が出来たものを他の地域やベトナム以外の新興都市に持っていきたいです。その過程で住環境の課題をより解決できるようなサービスの仮説がたてば、すぐテストしていきます。

あとは、ある程度の規模になってくると自分でできることに限界がうまれ、チームのメンバーに頼ることが増えます。会社のミッションである「生活体験を向上させる」は顧客だけでなく、弊社のメンバーにも実現させてあげたいと強く思っております。ですから、今後の事業展開にあたっては、我々のチームの自己表現の場として、事業を使いたいと思っています。僕の目的は、サービスを使ってもらうことでコンテンポラリーな日本を表現し「日本ってイケてるな」「かっこいいな」と感じていただくことです。それにはローカルの視点を取り入れたサービス作りが欠かせません。

_カフェ以外で何か他に考えているものはありますか

僕らは居住空間に焦点を当てているので、カフェ以外の業態としては、「泊まれる場所」を考えています。現在のChidori のお客様が今後、ライフステージ上がってChidori を使わなくなったとき、そのお客様に対する次の段階の提案という意味でブティックホテルのようなものを考えています。まずはChidoriの店舗数を増やすことですが、次はChidoriを卒業したお客様の自己実現に貢献できるようなサービスを追加していきたいと考えています。

_齋藤さんのミッションが浸透していくといいですね

ベトナム政府は2045年までに一人当たりGDPを4万ドルにする目標を掲げています。現在の日本が3.5万ドルですから、あと10年くらいしたらホーチミン都市部の平均可処分所得は日本のそれより上がるのではないでしょうか。これから急激なライフスタイルの変化を経験していくベトナムの若者が、今この段階でChidoriのおかげで日本に興味を持ち、日本のサービスはやはり丁寧で素晴らしいと思ってくれたら嬉しいです。少しでも多くの人に日本のイメージを高めていただけるようなサービスを提供したいです。そして日本に来てもらえるようになれば、日本の直接的な利益にもなります。やっぱり日本ってイケてるよね、と思ってほしいですね。

・ベトナムでビジネスをすることの醍醐味は何でしょうか

ベトナムの経済成長は本物であるということです。ですから、値上げは当たり前。それを許容していくだけの成長があります。つまり経済が10%成長したら、Chidoriはそれ以上に成長しないといけないんです。でなくては顧客の成長に我々の価値提供の成長スピードが追いついてないことになります。
プレッシャーはありますが、これはベトナムの醍醐味でもあります。この市場で切磋琢磨することで自然と進化が求められます。去年のサービスレベルと一緒ではお客さんに怒られてしまう、そんな適切なプレッシャーがある環境で仕事ができること、それにキャッチアップすることで自己成長に繋がることが楽しくて仕方がないです。

ベトナム・ホーチミン市街の風景

 

・スタートアップとしてベトナムでビジネスをする上で苦労することはありましたか。それをどうやって解決しましたか。

相談できる相手や経験がある人が少なすぎることですね。仮にいたとしても相談できることには限度があります。だからこそluatsuさんのようなアジアの専門家ネットワークは本当に貴重です。luatsuの専門家の方にはたくさん相談に乗っていただきました。韓国人や中国人に比べて、ベトナムの日本人コミュニティはまだまだ小さいです。先代や情報が少なすぎる中で、日本人の経営者同士で助け合い、蓄えた情報をシェアして失敗をスキップできるような仕組みを作る。その先駆けとしてluatsuさんが活躍しています。困ったらそういった方々を頼るべきです。

_文化の違いや現地の人とのコミュニケーションの面ではどうでしたか

やはり海外で商売をさせていただいているので、どんな人と働くか、またどんな人がお客さんになってくれるか、などの人への理解という面でも苦労しました。この点についても、1人ではどうしようもなかったと思います。外国人として言葉の通じない外国で、ローカル向けの事業をやるには、日本人1人では限界がありました。ベトナム人のお客様に買ってもらいたいのに、僕だけで考えても、相手側の需要と噛み合わなかったんですね。
幸いベトナム人の方と共同創立者することができ、彼女のインサイトと僕のインサイトがうまく噛み合いました。一概には言えませんし、目指すものによりますが、消費者向けビジネスで海外で起業するなら共同創業、できるなら現地の人とやるというのが現実的だと思いますね。

 

・人生のターニングポイントとなった経験があったら教えてください

自分が一回白紙に戻る経験です。僕は幸い過去にそのような経験をすることができました。日本で大学まで行けているような人は基礎学力は申し分ないと思うので、基本的な価値観を疑いなおす機会を意図的に作ることで自分への理解度がぐっと増しますのでおすすめです。
僕の場合、学生時代に行った10か月のフィリピンのマニラへの交換留学が人生を変えました。これも当時の大学の友達からはなぜ新興国にいくのかと全く理解してもらえませんでした。ですが僕は自分が生まれ育った環境と180°違う環境を選択すること、その国の情報が集積している「都市」に価値があると信じていたので、米国やイギリスなどの一般的な選択肢がある中で、敢えて新興都市を選びました。そこで学生特権を使い、様々な経営者にインタビューをしに行きました。

その時から今でも尊敬している先輩方が多くいらっしゃる一方で、コンシューマー向けのビジネスでローカルの人に愛されなくてはならない仕事なのに、彼らへの愛着や敬意が見れない方々も多々いらっしゃり、純粋に驚きがありました。親日な国はありがたいはずなのに、その土台を切り崩している方があまりにも多かったんです。その時から、自分だったら違うやり方をできるのになと思うようになりました。それが日本のプレゼンスを本気で上げたい、取り戻したいと思ったきっかけでした。こうしたネガティブな経験があったからこそ強いバネになりました。

 

・日本の若者に向けて伝えたいことはありますか

日本でのしがらみを解放して、ホーチミンなど急成長都市に出向き、いつもと違う体験をおすすめします。自分の価値観というものはわかっているようでわかっていないもので、私もまだ道半ばです。自分の価値観を理解するためには自分をリセットする経験が必要です。一度外に出てみることで、今まで置かれていた環境の良さを感じたり、自分の知らなかった一面を知ることができたり、海外の学生に圧倒されたりと、気づけることがたくさんあると思います。

_齋藤さんが思う、ベトナムの学生と日本の学生の違いをお聞きしたいです

ベトナムの学生はありえないくらい勉強をしているんです。いつ寝ているの?みたいな。彼らは英語で会話ができるのは当たり前。それだけでなく日本語もでき、加えて国際的な資格を持っている人もたくさんいます。日本の学生は、待っているのではなく、自ら出向いて彼らともっと触れ合い、切磋琢磨するべきです。日本の学生が将来競争する相手は彼らのようなとても優秀な人たちです。僕はリスク許容度が極端に高かったので独立という手段を選びましたが、どんな手段でもいいので触れ合う機会を増やしてほしいです。自分からプロアクティブに動くことが必要ですね。

ベトナムで経験を積みたい方や、私たちのミッションに共感し、一緒に日本のプレゼンスを上げていっていただける方はインターン含め、常に募集しています。コンテンポラリーな日本を伝達していく中でより多くの日本人が協力してくださると嬉しいです。一歩を踏み出すきっかけに貢献したいと思っています。こうした志を持つ方はぜひ私に直接ご連絡ください。
chidori.vn/feedback

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