【Freecracy 国本さん】ベトナムからテクノロジー主導型でHR領域に変革を
- 2024.04.12
- Companies
ベトナムから人材プラットフォームや学習データを活用したHR・SaaSサービスを展開し、世界58万人のエンジニアプラットフォームとなったFreecracy。世界中の発想する才能と創造する才能を繋ぐために世界の才能が自由に国境を越えて繋がり、 自由な働き方を実現するあらゆるプラットフォームを提供している。本記事では、Freecracy創業者である国本さんに各事業の展望や自身のゴールについて伺った。
【プロフィール】国本和基(くにもとかずき)さん
1982年大阪府生まれ。米国オクラホマ州立大学卒業後、ITコンサルティングの会社に就職。その後メーカーの海外事業部に転職し、欧州や東南アジアの国々に駐在。社会人研修事業及び幼児教育事業を立ち上げた後にその会社を売却し、2018年8月にfreecracy株式会社を創業。ベトナムと日本共同で世界に通用するサービス・プロダクト・会社を創ることを目標として掲げている。
Freecracy Website:https://freecracy.com/
現在の事業について
ーFreecracyの3つの事業について聞かせてください。
1つ目がHiring Techで、祖業になります。元々人材紹介や人材広告に対して非効率な部分が多いと思っていたのでこの領域でテクノロジーを使って何かできるんではないかと思いました。具体的にはプラットフォームに候補者や求人情報が集まるような仕組みを作ってAIシステムで分析することにより効率的な採用ソリューションを提供しています。
2つ目がDX Studioで、Hiring Techの候補者58万人(2024年3月現在)の約半分がエンジニアのデータベースでありその中で優秀なトップ5%の人材をセレクトして日本やシンガポールに開発リソースを提供しています。日本の会社が海外で採用できる優秀な人材を直接パイプとして繫げたいということ、またコロナ禍でも優秀なリソースをリモートで海外に提供したいという2つの理由ではじめました。
3つ目はATS(採用管理システム)/HRIS(人事総合システム) SaaSで、Hiring Techのプラットフォームから学習したデータベースを元にIT専門のヘッドハンターが欲しいシステムを形にしたものです。そのため採用担当者が使いやすいシステムになっています。
ー現在の3つの事業の割合はどのようなものでしょうか。
リソース面の割合だと、Hiring Tech 4割、DX Studio 4割、ATS/HRIS SaaS 2割です。ATS/HRIS SaasSは人依存ではないビジネスなので割合は今後増えていく中で4〜5割ほどになることを想定しています。
売上面では長期的にみるとATS/HRIS SaaSが牽引していくべきで、中期的な観点ではDX Studioを伸ばしていきたいと考えています。ATS/HRIS SaaSで企業様の採用情報を集約し、それに対してDX Studioで人材を提供するというように両輪で展開していく予定です。
なぜ起業するのにベトナムを選んだのでしょうか。
最初コンサルティング会社に入社しましたがリーマンショックによって海外との仕事ができず、メーカーの海外事業部に転職し、出張などで色々な国へ行っていました。プライベートで行った国を合わせても、ベトナムから感じるエネルギーが突出していて、更に理数系の能力が非常に高いことからベトナムで働きたいと思いました。また、起業するのであれば成長している国で働きたいというのもありました。
ー起業の地が大学時代を過ごしたアメリカや仕事で訪れたポーランド・タイではなかった理由はありますか?
大学はオクラホマでした。アメリカの栄えていたりシリコンバレーがあったりというような場所ではなくて農業をしている人が多く、そこではベトナムほどエネルギーを感じなかったです。ポーランドはどんよりしていて寒く、またタイはベトナムより発展していましたが理数系の弱さなどを感じていました。日本で起業しなかった理由は、東南アジア×HR×ITというかけ算で仕事をしたかったという思いがあったからです。
ー最初からHR事業と決めていたのでしょうか。Freecracyの前に起業していた教育事業会社についてもお伺いしたいです。
最初の教育事業は生徒数が年々伸びていった一方、スモールビジネスだったので売却して大きな挑戦がしたいと思い、今の事業に至りました。次の事業としては市場規模が大きくなる領域でやりたいという気持ちがあり、その中でITが根本から導入されていないHR分野か、遅延情報の連絡が遅く課題が大きいと思っていた航空業界のどちらかにしようと考えていました。どちらの経験もなかったですが、自分がやったことの価値を生み出しやすいと感じたHR領域での事業をスタートすることにしました。
ー起業当初の困難としてどのようなものがありましたか。
ビジネスの成長や人材採用の面など様々ありますが、今考えると1つの要素に起因していると思います。それは解像度の低さです。
ビジネスの成長に関してだと、マーケットのトレンドやマーケットで必要になるクライアントのペインの解像度が低かったと思います。それによってどんなプロダクトを作ってもなかなか使ってもらえなかったです。人材採用面でも、面接でプロダクトの説明やマーケットをこのように変えていきたいということを話しても優秀な人であればあるほど欠点や解像度の低さに気づいていたと思います。
ーベトナム人のCTOであるJamesさんと働かれていますが、その強みは何でしょうか。
僕とJamesはとても相性が良いと思っています。問題提起派である僕が色々な人と話してアイデアを出すと、Jamesが問題解決派としてアイデアを形にし、プロセスを作り上げてくれます。それだけではなく、Jamesはゲートキーパー的な役割を果たしてくれています。僕が投げたボールの8割は却下されていますが、冷静な視点で実現可能かを判断してくれています。
また楽観的な僕と悲観的なJamesという違う考え方であることが僕を安心させてくれます。バックグラウンドも性格も異なる僕たちですが、共通しているのがダイレクトコミュニケーションを常にするということです。お互い英語がネイティブではない中、気を遣ったり回りくどい言い方をするのではなくはっきり伝えるように心がけています。
Hiring Techについて
ー他の人材紹介事業と比較した強みは何でしょうか。
特にエンジニア領域においてデータベースを持っているという点です。このデータベースは動かないものではなく常にアップデートされており、登録していただいている候補者の検索履歴や履歴書の更新を受けるとすぐに検知することができます。またHR系の業界だとテクノロジーは補助的なものになってしまいがちですが、僕らはテクノロジーありきで仕事をしておりこの業界を変えられるのではないかと思っています。
ー現在の登録者や年齢層、属性はどのようなものですか。
現在の登録者は58万人(2024年3月現在)で約半分がITエンジニアです。登録者の平均年齢は25歳ですが、自社のスイートスポットは5年ぐらい経験のある27歳ぐらいを想定しています。
ーベトナムで人材紹介を利用する人に特徴はありますか。
わざわざ人材紹介を使って人を探すということは、エンジニアやマネージャーレベルの優秀な人材を探しているということです。その優秀な層は10年前のベトナムと比べると圧倒的に増えてきていて、その年代がスイートスポットである27歳ぐらいになります。
転職に関してはジュニア・ミドル・シニアでその目的が異なります。ジュニアは給与の上昇、ミドルは技術を伸ばしたいということ、シニアになると結婚する人も多いので安定した職場を求めて転職する人も多いです。
DX Studioについて
ーDX Studio(ラボ型開発)の強みは何でしょうか。
大きく分けて2つあります。
1つは、プラットフォームがあるため人材の供給に関して莫大な量の中から上位5%の優秀な人材を探し出すことができることです。
2つ目は、弊社自身もプロダクトを作って伸ばしている会社なので他人行儀にならないということです。お客様に寄り添ったうえで、将来的に拡大するときにも対応できるような提案をしています。
ーお客様にとってラボ型開発のどのような面にニーズがあるのでしょうか。
日本でエンジニアが足りないと言われている中で、より優秀でかつコストメリットも出せるようなエンジニアを探したいというのがお客さんのニーズになります。請負ではなくラボ型を選んでいるのは、プロダクトのライフサイクルも早くなって開発も機敏になってきている中で毎回要件提示をして見積もりをして、というのではなく自由に使える海外の優秀なエンジニアチームがいたほうが良いからです。
ー「DX Studio」2020年ローンチ時、現在よりもラボ型開発への認知がなかった時にどのように売り出していったのでしょうか。
日本での理解の無さは感じることもありましたが、現場に行かない海外のSES(System Engineering Service)である、また優秀な海外チームをずっと囲って自由に使えるサービスである、という表現をして訴求していました。弊社のお客さんだと、将来ラボのメンバーを引き連れてベトナムに法人を作り、そこでエンジニアを雇用したいというのが全体の約5割を占めています。
―本田圭佑さんのCMが日本で放映されていましたが、日本での反響はどうでしたか。
外部からの新規のお問い合わせに加え、ラボ型を使っていただいているお客さんから「あのCM見たよ」というご連絡もいただきました。Freecracyは「紫と本田圭佑」というように認知が広まりブランディングができたのではないかと思っています。
ATS(採用管理システム)/HRIS(人事総合システム)について
ーこれから拡大していくATS(採用管理システム)/HRIS(人事総合システム)はどのようなものでしょうか。
ATSはApplicant Tracking Systemなので採用管理ツールのようなイメージです。採用するための求人を作って、それにふさわしい候補者にリーチするために様々なプラットフォームと連動させていきます。さらに、人事の方が何のソースから入ってきた人が自社にマッチする優秀な人材で、採用確率が高いかということ等も分析できるようなツールです。
HRISはHuman Resources Information Systemなので人事の総合管理システムで、採用からOnboarding、Offboardingや評価管理、将来的には給与支払いなど全てを包括した仕組みになります。
ーベトナムでSaaSサービスがまだ難しいという話も聞くことがあるのですが、どのように強みを発揮されていくのでしょうか。
SaaSに対してお金を出すということがまだまだ少ない部分でもあるのですが、ATSでいくと採用に直結するかということが最も大事なことです。あとは人事を管理する方にとってExcelよりも使いやすく、採用が進むツールだというのがポイントです。僕らの強みである人材のプラットフォームと連携して売っていくというのが我々が出していける特色だと思います。
ー競合も多い領域だと思いますが、Freecacyとしてどのように広げていく戦略がありますか。
1つはシステムではなくエコシステムを作るということ。お客さんの採用に直結するためにやるべきことは全てやります。また、採用管理ツールだけではなくお客さんの会社専用のレジュメ生成ツールの作成なども行います。
もう1つは、新しいテクノロジーを入れていくことです。松尾研究所とPKSHA Technology Capital傘下のPKSHAアルゴリズムファンド2号からの出資を受け、共同で最先端の技術を入れていくことに取り組みます。
また最近では日本の大手クライアント様向けにATS SaaSをベースとしたプレパッケージ型の開発を行わせて頂くこともあります。弊社の採用における高い知見と同じく開発能力を評価頂き、またプレパッケージ型なのでコストパフォーマンスが高く、短納期でデリバリーさせて頂くことが可能です。
国本さん自身にとってのゴールとは何でしょうか。
短期的なものでいうと上場してお世話になった投資家の方にファイナンシャル的なリターンはしっかりしたいなと思います。
中期的な目線でいうと、上場がゴールではないので会社をしっかりスケールし世界的なプラットフォームにしていきたいです。
長期的な目標は、もし自分の経験や力が活きるようなことがあればベトナムや日本に限らずともスタートアップの支援をやっていきたいです。また自分自身は昆虫や海洋生物に興味があるのでそういった大学院に行きたいなと思っています。
ーアメリカへの大学進学やジーズアカデミーへの入学、USCPAの取得など、努力するモチベーションとなっているもの、自分を突き動かす原動力となっているものはなんでしょうか。
自分にとって原動力=好奇心です。自分のやりたいことが仕事のため、よく「仕事が好きですね」と言われます。
アメリカの大学進学は、小さいころから映画が好きで幕末の話も好きだったので勝海舟や坂本龍馬が行ってみたかった国に行きたいと思ったからです。また、父が自営業で繊維業をやっており安い品物が入ってくる中でこれからは海外の資本を使える人じゃないと勝てない、とも言われていました。それに加え、近所に1年間海外留学をしてもあまり英語が喋れない方がいたので折角なら4年間丸々行きたいと思いました。
ジーズアカデミーへの入学に関しては、当時35歳だった自分がこれから働く人生の中でテクノロジーを開発する立場を経験せずにいるのはビジネスマンとしてやっていけるのかという危機感と、自分ですごいプロダクトを作ってみたいという好奇心があったからです。
USCPAはアビームコンサルティングにいたときに、簿記2級を取得を勉強していたら楽しく、次の目標を延長線上で考えると自分の武器は英語だったのでアメリカの公認会計士を取ったら面白いのではないかと思いました。
ー学生のうちにしてよかったことやするべきことはありますか。
逆説的になってしまいますが、「今しかできないこと」は実はそんなにないんじゃないかなと思います。中長期的なことを考えて、やりたいと思うことは学生だからやろう、ではなくてやりたいからやる、でいいと思いますね。
ーいまは日本に滞在している期間も多いということですが、今後はどこで過ごしたい、どこでビジネスをしたいというイメージはあるでしょうか。
どこにでも住めるといわれたらスリランカに住みたいですね。海沿いを走る列車がありレールの1.5m先が海のような環境で、素敵な海の近くで過ごしたいと思っています。
ビジネスに関しては、元々旅をしながら起業したいと思っていました。好きな国でかつ僕らの会社の強みが生きてマーケットが十分なところでビジネスをしたいと思っています。
僕は高校卒業してから日本にあまり住んだことがなかったので、今になって逆に日本はいいなと思うことも多いですね。
ー仕事のことについてアイデアを練るのはいつでしょうか。
仕事のアイデアが出るのはプライベートの時が多いですね。土日にカフェへ行って本を読みながら、自分の考えていることとのかけ算でアイデアを出しています。CTOとは土日のどちらかで3.4時間程時間をとって、お互いの話したいことについて議論します。だからアイデアを出すのに必要なのは、本とコーヒーとJames(CTO)なのかもしれませんね。
最後に
ーAIの研究開発などにも強いPKSHAからの直近の調達など日本で資金調達されていますが、どういう事業パートナーや投資家を増やしたいということはあるのでしょうか。
1つは親や兄弟、友達のような無償の愛をくださる方です。このように応援してくれる方がいらっしゃると精神的に支えになりますよね。
もう1つは、ビジネスのグロースにおいて必要にさせていただけるパートナーさんです。お金だけではなく、なにか一緒にやらせて頂くことのある方から調達したいという思いがあります。
ー現在採用したい人はどのような人でしょうか。
2人いますね。
1人は日本側のビジネスのグロースを僕と一緒に考えてくれる人です。
もう1人は、ATS/HRISのSaaSに関して僕らはプロダクトの開発は強いのですが、逆にグローバルでのマーケティングをしたことがないのでその分野に強い人を募集しています。
ーベトナムでの事業を考えている方にメッセージをお願いします。
個人的にはベトナムで成功しなかったら海外で成功しないんじゃないかと思っています。それくらい日本人にとってベトナムは事業しやすいと思います。ベトナムには多くの専門家や起業家の先輩方などサポートしてくれる日本人もいます。
今スタートアップとして事業をやったとしても失うものはほとんどなくて、事業がなくなってしまっても得られるものばかりだと思うのでやるのであれば早く挑戦したほうが良いのではないかと思っています。