ベトナムでスタートアップ |後悔しない会社設立と経理のための5つのこと
- 2020.09.16
- 起業関連情報
こんにちは。Luatsuメンバーの實原です。I-GLOCALというベトナムの会計事務所を経営しています。最近、ベトナムでスタートアップを起こす若い日本人起業家が次々に出てきていることがとても嬉しいです。この流れがもっと加速していって欲しいと思っています。スピードと情熱をもって、どんどん事業を成長させていく起業家の皆さんに、事業が軌道に乗った後に経営管理面(会計、税務、資金調達、労務 etc)で後悔してほしくない。そのためのヒントになればと思い、ベトナムでのスタートアップの会社設立と経理(経営管理)の作り方について考えてみました。
1. ベトナムだからこそ、イグジットを強く意識したい
ベトナムでスタートアップを始める日本人起業家は、海外でビジネスをすることの心理的なハードルが低く、「日本で起業するより成長著しいベトナムで起業した方がいいよね」というシンプルな感覚を持っている方が多いです。それはこの地で事業を立ち上げて推進するには素晴らしい強みだと思いますが、後になって経営管理面で弱みになることもあります。
スタートアップとはいえ、外国人が外資系企業を経営することになるので、ベトナム人がベトナムで起業するのとは全く違う次元の各種許認可やコンプライアンス(法令順守)が求められます。
日本で起業するような感覚で始めてしまうと、無意識のうちにいろいろなところで法令違反をしてしまっていて、それが後々大きな問題として顕在化してしまうことになります。事業が大きくなって大手企業からの出資や、M&AやIPOなどのイグジットを考え始めた時に修正しようと思っても、何倍、ときには何十倍の労力がかかってしまいます。
ベトナムでやるからこそ、最初から将来のイグジットを明確に意識して、許認可、経理、各種コンプライアンス面に強い経営をしていくのが得策でしょう。
2. 名義借りはせず、最初から外資企業を設立しよう
外国人である日本人がベトナムで起業する場合、主に下記の2通りがあります。
① 起業家自身の名義で外資企業として会社を設立する
② ベトナム人に名義を借りて、ローカル企業を設立する
意外かもしれませんが、②を選択する人も多いです。それは下記のような背景があります。
・ ベトナムは外資規制が強いため、外資企業の設立に比べると、ローカル企業の設立の方が簡単
・ 税務調査や各種許認可面において、当局の管理がローカル企業に対しては緩く、会社運営が楽
・ 事業が軌道に乗ってから外資企業に切り替えれば良いと考える
1つ目と2つ目の理由はたしかに事実ではありますが、実際には外資企業を選択したとしても、(業種によりますが)設立はそれほど難しくはなく、きちんと管理していれば税務調査などで大きな問題が起こることもありません。
また、後になって外資企業に切り替えようとしても、多くの場合それまでの管理がずさんなため、遡って修正することは難しく、新たな会社を設立して全事業を譲渡するという大掛かりなオペをする羽目になってしまうこともあります。
【最初から外資企業の設立を推奨する理由】
① 毎年の監査法人の監査が義務付けられるので、一定レベル以上の経理体制を作る外圧がかかる
② 定期的に厳しい税務調査が入るので、会社も経営者自身も保守的かつ正確な税務申告をする外圧もかかる
③ 取引先、金融機関、投資家候補などの各ステークホルダーや信用調査会社に、いつでも投資ライセンス(登記簿謄本のようなもの)や監査済財務諸表などの会社情報を出せる
経理体制の構築や税務対策は、起業家にとって面倒であったり、コスト面で負担となりますが、後から外資化することに比べれば遥かに簡単で安上がりです。また、大手企業からの出資や、M&AやIPOなどのイグジットの際に大きなメリットになります。
最初から外資企業を設立することを躊躇する場合は、会社を作る前に、
・ 提携先を探して、その名義とリソースで事業を始める
・ (IT系の場合)既にベトナムに進出している日系IT企業でラボ型開発する
・ 代理店やOEM先を見つけて販売委託や製造委託をする
というような方法でベトナム事業を始めてみて、事業化の見通しが立ったら会社を設立するという方法もありだと思います。
3. 日本やシンガポールに出資会社を作るべき?
スタートアップの起業家と話すと、この話題に花が咲きます。個人出資でいいのか?日本に出資会社をつくってそこからベトナムに出資すべきなのか?日本ではなくシンガポールに出資会社を作った方がいいのか?
成功した先輩起業家からの影響を受けてシンガポールに出資会社をと考える人が増えている印象があります。しかし、私は日本に出資会社がベターではないかと思っています。理由は下記です。
【日本に出資会社設立を推奨する理由】
① 日本の金融機関からローンを調達できる
② エクイティの調達も日本出資会社で行える
(個人出資にすると、各投資家がベトナム法人に直接出資することになるため、ベトナムの手続が煩雑)
③ 当面の間、シンガポールから出資しても税務メリットを享受しにくい
(ベトナムは企業間の配当に対する源泉税がなく、個人においてもベトナムに居住すれば海外から所得を得ていても全世界所得に対してベトナムで課税されるため)
特に①については、私自身が日本に出資会社を設立していて強く実感するところです。今の日本の金融機関からの資金調達環境は、調達のし易さにおいても金利面においても非常に企業側に有利であり、これを利用しない手はないかと。デットを有効活用することで、エクイティの調達額を抑え、経営者の持分の希薄化を最小限にするという資本政策のストーリーが描けます。
この出資会社をどこに作るかという論点は、税金面だけでも法人と個人の両方について非常に多くの論点があり、さらに、資金調達、許認可など、さまざまな要素が関係します。シンガポールを選択肢にいれることで、グローバル人材の採用、人脈形成(エコ体系作り)、経営者の将来の家族の生活や子供の教育など、副次的なメリットも考えられます。
そのため、どれが正解になるかは起業家によると思いますが、感覚的には8割方のケースは日本出資会社が正解になるような気がします。特に、限られた資金で起業する若い日本人には迷わず日本出資会社をお勧めしたいところです。
このテーマは個人的にもっと深く研究していきたいと思っていますので、別の機会に改めて考察したいと思います。
4. アウトソースするもの、内製化するもの
私が経理のアウトソースをする会社を経営しているので、ポジショントークになってしまうのですが、今まで何百社という日系ベトナム法人の立上げに携わった経験から言えることは、バックオフィスはアウトソースできるものはアウトソースすべきということです。理由は下記です。
・ アウトソースしても内製化してもトータルのコストはあまり変わらない
・ 不正防止効果がある
・ チーフアカウンタント(経理部長)や給与計算担当が突然退職して会社運営が滞るリスク回避
・ バックオフィスのマネジメントから解放され経営者が本業に集中できる
【アウトソースすべきもの】
・ 会計帳簿、月次決算書作成
・ 法人の税務申告、個人の税務申告
・ 給与計算、社会保険関係の手続
・ 外国人の就労許可
・ 各種契約書作成
・ 就業規則など、各種規定類の作成【内製化するもの】
・ 現金管理、インボイス発行
・ 書類のファイリング、データ保存
・ 人事評価制度構築・運用
・ 社員旅行、忘年会などの福利厚生の企画運営
5. メンテナンスはどうする
外資企業を設立していれば、必要最低限のメンテナンスは自動的に行われます。毎年監査を受けますし、定期的に厳しめの税務調査を受けるからです。決算書作成や税務申告をアウトソースしていれば、監査や税務調査で大きな問題が発覚することはないでしょうし、小さい問題でも発覚したらそれを一つ一つ解決していけばよいだけです。
私はM&Aの買手側のアドバイザーとしてデューデリジェンスをすることが多いのですが、売手有利のM&Aが成立するケースの共通点は、「経営者が自社の問題点を把握し、事前に潰す、もしくは潰すストーリーを用意している」ことです。買手や投資家は、ある程度問題があっても、それを解決するストーリーがあれば、多くの場合それらのリスクは許容します。
M&Aに限らずイグジットを検討し始めたら、簡単なセルフデューデリジェンスを行うことをお勧めします。会計、税務、労務、法務、事業面の問題点を総ざらいして把握し、出来る対策は事前に講じておくことで、有利かつスムーズなイグジットに繋がるでしょう。
おわりに
最後までお付き合いありがとうございます。
ベトナムでスタートアップを起業する経営者の皆様に、下記をお勧めさせていただきました。
① イグジットを意識して事業をする
② 名義借りはせず、外資企業を設立する
③ 日本に出資会社を設立する
④ バックオフィス業務はできるだけアウトソースする
⑤ 定期的なメンテナンスで問題点を把握し、解決の道筋を立てておく
これらは他のアジア各国で起業する場合にも、概ね当てはまるのではと思っています。
これからも、ベトナムや他のアセアンのスタートアップの起業家の皆様と関わっていく中での気づきや考え、何らかお役に立ちそうな情報を発信していきたいと思います。