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経営者に伝えたい、ベトナムの税金との付き合い方

普段は、どちらかというと大きな会社に対して、税務の専門家として話したり書いたりすることが多いので、やや保守的でリスクにフォーカスした内容になってしまうことが多いです。
ここでは角度を変えて、経営者としてベトナムの税金とどう付き合っていくべきか、ということについて普段自分が考えていることや、仲間の経営者に話すようなことを書いてみたいと思います。
読んでいただく方に何か1つでも参考にしていただけるものがあれば嬉しいです。

1. 一定のリテラシーを身に着け、あとは「重要事項だけ」でよい

私はたまたま税務の専門家でもありますが、当然ですが多くの経営者は税務の専門家ではありません。事業を伸ばし、会社を成長させる本業に集中し、税務などの経営管理系マターは社員や専門家に任せてしまって良いと思います。

しかし、経営者にある程度のリテラシーが無いと、優れた専門家や社員を選ぶことは難しいですし、有効活用することはなかなか出来きません。また、重要事項に関しては、自身が要所を理解して経営判断に生かした方が良いこともあります。

経営者自身も最低限の税務リテラシーを身に着けることと、会社の中でも外でも良いので直ぐに相談できるブレーンを持つこと、これが大切なのかなと思います。

2. やっぱりきちんと申告している会社が伸びる3つの理由

私もその一味ですが、会計士や税理士などの専門家やコンサルタントは、

「税法を守りましょう。でないと後でとんでもないことになりますよ」

みたいなことしか言いませんよね。
聞いた方は、

「そりゃあんたはそう言うしかないでしょ」
「小難しいことを言って不安を煽って、自分が仕事とりたいだけでしょ」
「そんなにきちんとやる必要ないんじゃないの?」

なんて思ってしまいますよね。

しかし、少なくともベトナムに関しては、やっぱりきちんと税法を守っている会社が伸びると思っています。理由は下記です。

①「税務調査負債」が、税務コンプライアンス費用よりも大きい
② 組織のコンプライアンスの文化が醸成され、不正防止効果が期待できる
③ イグジットする場合、税金面がルーズだと後悔することに

理由①:「税務調査負債」が、税務コンプライアンス費用よりも大きい

仰々しい言葉を2つ使ってしまったので、解説させてください。

税務調査負債とは、税務調査を受けたときに払わなければならない税金と罰金の合計のことで、勝手に造語しました。ベトナムの場合、税務調査が厳しく、罰金が高額なので、この税務調査負債が大きいのです。そもそも税務調査を受けなければ発生しないものですが、ベトナムの場合、外資系企業が税務調査を受ける確率はけっこう高いので、日本と違ってこの税務調査負債が発生する可能性も高いのです。

正直現時点では、調査が入っても税務局員に便宜を図ればなんとかなる部分はまだありますが、ベトナム政府が進める腐敗防止策によって、そういうことが出来なくなっていくトレンドは間違いなく進んでいます。税務調査は過去に遡って調査されるので、我々経営者は「将来」どういう税務調査を受けるのかということを考えて「今」の運用をしておきたいところです。

税務コンプライアンス費用とは、

・ 税務に精通した社員を雇う費用
・ 外部の専門家を使う費用
・ いい加減に申告していたら払っていなかったであろう税金

これらの合計です。

要するに、日頃からきちんと税務申告するためにかかるコストよりも、それをせずに税務調査を受けた時に払わなければならない金額の方が明らかに大きくなってきているので、損得勘定だけを考えてもきちんと申告していた方がお得ということです。

理由② :組織のコンプライアンスの文化が醸成され、不正防止効果が期待できる

日系企業でも、不正が横行している会社もあれば、不正が起こりやすいベトナムにありながらも全くそういうものが無い会社もあります。それを決定づける最大の要素は「不正を正当化できる組織文化の有無」にあると思います。

会社が守るべき法令を守っていなかったり、経営者自身が払うべき税金を払っていなかったりすれば、自分だって多少ルール違反をしても良いと考えてしまう人が出てくるのは自然なことですよね。

理由③:イグジットする場合、税金面がルーズだと後悔することに

IPOするのであれば、潔癖なまでに税務コンプライアンスを徹底する体制構築を求められますが、それまでいい加減にやっていた組織を急に変えるのはほぼ不可能です。

バイアウトするのであれば、交渉段階で税務に関してもデューデリジェンスを受けなければなりません。そこで過去の税務申告違反は精査されて、その分企業価値が減額されるのは当然ですが、交渉そのものが破談してしまうこともあります。また、ベトナム特有の傾向として、破談しないものの過去の税務リスクを引き継げないという判断で、事業だけ譲渡して会社は清算することになってしまうこともよくあります。ベトナムの会社清算は税務調査を伴うとてもハードルの高い手続きで、多くの場合、数年の時間を要し、最終的に多額の税金や罰金を科されることになります。

いかに目先の節税にとらわれないか

私は、

税法を守ること = 会社の成長を促すこと

は成立すると思っていますが、

節税 = 会社の成長を促すこと

は必ずしも成立しないと思っています。

税金を減らし、その分で得た資金を事業に投資することで会社が成長するという考えにはもちろん賛成です。

しかし、目先の節税を優先したことで、逆に会社の成長を妨げることになってしまうこともあります。

ベトナムの場合、最も顕著な例は従業員の賞与と福利厚生です。
ベトナムは個人の評価や会社の業績に応じて柔軟に変動する賞与は損金(税金計算上の費用)とするのは難しいです。そのため、大きな成果を出した社員も、そうでない社員も、あまり金額があまり変わらないような硬直的な賞与制度になりがちです。福利厚生も損金とするには様々な要件があるので、柔軟に行うのは難しいです。

経理スタッフや、会計事務所など外部の専門家は、どうしても目先の節税を優先して処理しようとします。そこは経営者自身が、時には余計に税金を払ってでも、会社の成長を優先する経営判断をしたいところです。
節税と人事労務については、是非別の機会に深堀させてください。

3. 美しい決算書を作る

美しい決算書がもたらす恩恵は絶大です。
金融機関、株主、幹部、従業員、税務署など、あらゆるステークホルダーの評価と信用を高めます。

特に金融機関に対しては、今の日本の資金調達環境において、絶大な効果を発揮し、資金繰りの悩みから完全に開放されます。日本を出資会社にすればそこで資金調達できますし、最近はベトナム法人が日本の金融機関から直接低利のクロスボーダー融資を受けられる環境も整ってきています。

また、美しい決算書は会社の価値を倍増させ、イグジットにも有利です。

美しい決算書の条件は、何よりもまず増収増益を継続していることです。
法人税の節税よりも美しい決算書作りを優先すべきです。たとえ売上が下がってしまったとしても、費用の一部を利益処分で処理したり、自分の報酬を下げてでも利益は伸ばすことで、経営者の覚悟を見せたいところです。

明確な理由無き増収減益は一番ヤバいです。
減収減益より問題だと思います。売上が上がった分以上に費用を使ってしまう会社だというレッテルを張られてしまいます。

4. 経営者個人のタックスプランニングは人生設計

このテーマはとても奥が深いのですが、これを扱うセミナーや書籍は全くありません。今までベトナムの日本人経営者という人種が少なかったので当然ではありますが。

ベトナムと日本、またシンガポール等の第三国の税法を把握したうえで、

いくら給料をとるのか、
ベトナム法人と日本法人でどう振り分けるのか、
給料と配当のバランスをどうするのか、
どこに住むのか、
どのくらいの資産形成を目指すのか、
誰に遺すのか、

などなど、経営者個人のタックスプランニングは、人生設計そのものと言えるくらい奥深いものだと思います。
個人の状況や価値観で正解は千差万別です。人任せにできないので自分で勉強し続けていくべきテーマです。
これも、別の機会に深堀して書きたいと思います。

5. おわりに(まとめ)

最後までお付き合いいただきありがとうございます。
僭越ながら、経営者のベトナムの税務との付き合い方について書かせていただきました。

① 一定のリテラシーを身に着け、ブレーンを持つ。基本人任せでOK
② 損得勘定だけ考えても、普段からきちんと税務申告した方がベター
③ 税法を守ることで、不正防止効果や企業価値UPが期待できる
④ 目先の節税にとらわれず、報酬体系や福利厚生をつくる
⑤ 美しい決算書にこだわる
⑥ 経営者自身のタックスプランニングは人生設計と考えて自分で学び考える

継続的にアップデートしていきたいテーマなので、随時関連する記事を書いていきたいと思います。またお付き合いください。

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